研究概要 |
【背景】我々は胃癌においてCDKインヒビターp27の蛋白発現量低下が強力な予後不良因子となることを報告した(Nat Med,1997)。その後の実験的研究でmRNAレベルでは発現低下がないことを明らかにし、蛋白レベルでの低下の機構を調べている。 【目的】p27の翻訳後制御因子であるユビキチンリガーゼ構成因子Skp2とその特異的促進因子のCks1に注目し、胃癌でのCks1、Skp2発現とp27発現との関連を解析し、さらに臨床的な癌悪性度診断への有用性を調べる。 【対象】胃癌細胞株AZ521,MKN28と胃癌76症例。 【方法】(1)細胞株にCks1とSkp2の単独またはダブル遺伝子導入を行い、定量的RT-PCR法、Western blot法でCks1、Skp2発現とp27発現との関連を解析した。(2)次に臨床例について定量的RT-PCR法、免疫染色法で各因子の発現を調べ、臨床病理学的意義を調べた。 【結果】(1)細胞株への単独遺伝子導入によりp27蛋白発現量が低下し、ダブル遺伝子導入ではさらに著明にp27蛋白発現量が低下した。一方、mRNAレベルの変化は予想通りほとんどみられなかった。(2)臨床例で局在をみるとCks1とSkp2は主に癌細胞に発現し、p27と逆の発現パターンを示した(P<0.05)。さらにCks1Skp2共低発現群はその85%が、一方Cks1Skp2共高発現群は11%がp27陽性であった。予後との関連をみると、Cks1及びSkp2mRNA高発現群は低発現群に比し有意に予後不良となった。さらにCks1Skp2共高発現群は最も予後不良で、反対にCks1Skp2共低発現群は最も予後良好であった(P<0.05)。 【結語】胃癌でのp27発現量は、Cks1とSkp2の協調作用による特異的蛋白分解により制御されていることが明らかになった。蛋白分解による翻訳後発現制御が癌関連遺伝子の発現量調節に重要な意義を持つこと、その結果、翻訳後発現制御因子が新たな癌悪性度診断の指標になることが示唆された。
|