研究概要 |
本研究では,我々が開発したヒトリポ蛋白リパーゼ(LPL)を過剰発現する遺伝子組み換えウサギ(LPL Tgウサギ)を用い肥満発症におけるLPLの役割についてin vivoを中心に検討を行った。その結果,1)普通食飼育下において,LPL Tgウサギでは血中のLPL活性は,通常のウサギの3-5倍に上昇しており,血漿中のトリグリセリド(TG)の値は雌で約1/2,雄で1/5に低下していた。また,2)雄ではTG値のみならず,総コレステロール(TC)値,高比重リポ蛋白(HDL),遊離脂肪酸(FFA)の値も有意に低下していた。さらに10%高脂肪食を負荷してLPL Tgウサギの脂質代謝の変化および肥満に関する検討を行ったところ,3)LPL Tgウサギおよび対照群で高脂肪食負荷後の体重増加率に有意差は認められなかったが,LPL Tgウサギで少ない傾向を示した。4)MRI検査では,LPL Tgウサギにおいて腹腔内の脂肪の沈着量が少ないことが観察された。実際に解剖して脂肪重量を測定したところ,LPL Tgウサギで対照群に比べ有意に低値を示した。5)高脂肪食負荷後,血中のグルコース値およびインスリン値は対照群で有意に増加したが,LPL Tgウサギでは高脂肪食負荷前と差はなかった。6)さらに,糖負荷試験を実施したところ,LPL Tgウサギの血中グルコース値,インスリン値,FFAの曲線下面積は対照群と比べて有意に低い値を示した。8)病理学的観察では,LPL Tgウサギの腹腔内脂肪細胞は対照群と比べて細胞の大きさが小さいこと,肝臓ではTGの沈着によると考えられる脂肪肝を生じていることが観察された。以上のように,LPL Tgウサギを用いた研究成果から,LPLは高脂肪食負荷による脂肪沈着を抑制すること,さらには肥満に伴って出現するインスリン抵抗性など糖代謝異常を改善することが示唆された。
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