ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は、現在、種々のヒト皮膚・粘膜上皮由来の良性・悪性腫瘍の原因ウイルスと考えられている。良性、悪性を含むHPV感染細胞の増殖や分化の異常が、主として原因となるHPVの遺伝子型によることもわかり、このことは「HPV型特異的細胞変性効果あるいは細胞病原性効果」と呼ばれ、そのメカニズム解明が、HPV感染症研究分野の重要な研究課題となっている。 病理組織学的に特異な細胞質内物質を認めるウイルス性疣贅は特に「封入体疣贅」と呼ばれ、「HPV型特異的細胞変性効果」のメカニズムを研究する上で重要なモデルとなっている。当該年度の研究においては、HPV1型、HPV4/60/65型、およびHPV63型感染封入体疣贅をモデルに、それぞれの型に特異的な細胞質内封入体の出現意義について、病理組織学的、免疫組織化学的および電顕的に検討した。いずれの型の細胞質内封入体も、免疫組織学的に、各々の型のE4タンパク質に対する抗体と反応することがわかり、HPVの型の違いによらず、E4遺伝子が、これらの細胞質内封入体の形成に関与することが示唆された。一方、病理組織学的あるいは電子顕微鏡的には、これらの封入体は共通してトノフィラメントあるいはトノフィブリルとの関連が予想されるものの、関連HPVの型により異なる所見を示しており、ケラチン代謝に対するHPVの関与と共に、その質がHPVの型の違いによって異なることが考えられた(第20回国際パピローマウイルス学会、2002年、パリにて発表)。 今後、各種ケラチン抗体や各HPV型のE4タンパク質抗体を用いた、免疫電顕的検討を加える予定である。さらに、各々の細胞質内封入体では、封入体の形態のみならず、封入体と感染表皮細胞デスモソームとの関連性について違いがあることが示唆され、今後、ウイルスと感染細胞の細胞接着様式についても、検討を加える予定である。
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