研究概要 |
初年度は効果的にCIITA分子を蛋白レベルで腫瘍細胞内に送りとどけるシステムの構築を試みた。まず発現蛋白のbistander効果が認められているHSV由来のVP22に注目したが、VP22蛋白は約32kDaと分子量の大きな蛋白であるため、VP22をN末端に融合させてもC末端に融合させてもVP22がhCIITA機能部位にfoldingしてしまう結果、hCIITAの生理機能を消失させてしまうことが判明した。そこで次にHIVに由来するTat蛋白の持つ細胞内への蛋白移入促進作用に注目し、これをhCIITA蛋白に融合した結果、N末端にTatを配したTat-hCIITA融合蛋白はMHC誘導能を十分保持していることが判明した。そこで組換型蛋白Tat-hCIITAを作成し、この精製蛋白をヒト培養肺癌細胞の培地中に添加した結果、Tat-hCIITA蛋白は培養細胞中に移行してMHCを誘導することが明らかとなった。しかし同時にTat-hCIITA融合蛋白は大腸菌内で封入体を形成してしまうことが判明し、種々の方法を用いても大量に精製することが困難であり、動物実験系にこの組み換え蛋白を使用することができなかった。次年度は、更に効果的な腫瘍免疫反応を惹起させるため、hCIITA及び各MHC haplotypeにマッチした抗原ペプチドをコードするoligonucleotidesをタンデムに配置した発現ベクターを腫瘍細胞に導入する方法を試みた。具体的には、hCIITA遺伝子下流にclass II MHC結合モチーフ(A/Jマウス,C3H/HeNマウス=I-A^k, C57BL/6マウス=I-A^b)に合致した結核菌(Tb)由来オリゴペプチドをコードするoligonucleotidesをfurin切断モチーフを挟んで配置した発現ベクターを作製(pZeo-hCIITA-HA-furin-Tb(k)-His, pZeo-hCIITA-HA-furin-Tb(b)-His)し、これらをヒト肺癌培養細胞TKB5に導入してその作動を確認した。次に、これらの発現ベクターをA/Jマウス由来神経芽細胞腫(C1300)、C3H/HeNマウス由来乳癌株(MM102)、C57BL/6マウス由来肺癌株(Lewis)に導入し、安定発現株の作製を試みた。現在までのところ、Lewis-pZeo-hCIITA-HA-furin-Tb(b)-HisおよびMM102-pZeo-hCIITA-HA-furin-Tb(b)-Hisの樹立を完了しており、LewisにhCIITAとTb(b)を共発現させることにより、宿主に対して良好な腫瘍免疫反応を惹起させることに成功している。
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