研究概要 |
本研究課題では2年間の研究期間内に,肝炎・肝硬変患者の分裂寿命から見た,肝不全の発生機構を解明し,肝不全治療の新たな治療戦略を確立することを目的として研究を行い,以下の成果を得た. (1)肝正常培養細胞株(Hc-cells,hNheps,WRL)では継代数に比例して,テロメア長の短縮が確認された. (2)肝正常培養細胞株では,β_2-estradiol(E2)の添加により,hTERT(human telomerase reverse transcriptase)mRNAの発現亢進が確認され,テロメラーゼ活性も上昇していた. (3)E2添加長期継代培養実験では,無添加群に比較してテロメア長の短縮が予防でき,分裂寿命が延長していた. (4)β-galactosidase stainの陽性率もE2投与で有意に抑制可能であった. (5)CCl_4肝硬変モデルラットにおける外因性E2投与は,テロメア長の短縮抑制効果を持っていた. 以上の結果から,肝細胞の分裂寿命は外因性のエストロゲン投与により延長させることが可能であり,新たな肝不全治療の可能性が示唆された. 一方で,以下の2つの問題点が残った. (1)hTERT遺伝子の過剰発現は,肝線維化の機構に重要な役割を担う肝星細胞の活性化を誘導する可能性があり,分離星細胞によるE2投与の実験を進める必要があると考えられた. (2)これとは別にABCトランスポーターの発現を指標に肝幹細胞を分離し,肝幹細胞の分裂寿命を解析しようと試みたが,解析に十分な量の幹細胞を採取することができなかった. 今後は,上記の二点について解析を進めたい.
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