研究概要 |
我々は細胞周期制御因子の細胞増殖能、分化、アポトーシスへの関与、機能の多様性を報告してきた。今回は骨軟部肉腫を他臓器の癌と対比させながら、細胞周期制御因子を基盤に悪性度を規定する複数因子による、包括的予後診断を行っている。 1)分解能の差異による蛋白量の違いと予後: cyclin A, Eは肺腺癌では細胞増殖能規定因子であり、その発現量は分化度、予後と逆相関する.しかし、扁平上皮癌ではcyclin Eは分化度の高い、予後良好の腫瘍に高い蛋白量を認めた。これは、cyclin A, Eの癌の組織型による分解の違いによるものであり、mRNAレベルの発現はどちらも低分化の予後不良群に高かった(J.Pathol.2003).この現象は骨軟部肉腫では認められなかった(第91回日本病理学会発表). 2)神経細胞のアポトーシスの誘導因子として我々が同定したcdk4/cyclin D1は、培養細胞による解析で、その過剰発現が血球系、肺癌、骨肉腫等の多くの細胞でアポトーシスを誘導することを明らかにした(Antican.Res.inpress).更に、これは実際のヒトの肺癌でも認められ、in vivoでも起こる現象であることを初めて明らかにした(第92回日本病理学会発表予定). 3)上皮系腫瘍でのみ過剰発現の報告のある上皮成長因子受容体(EGFR)は、肉腫ではほとんど異常が見られないが、悪性線維性組織球腫の10%で過剰発現、遺伝子増幅を認め、このような特殊な症例における治療指針の一助となる可能性が考えられた(第62回日本癌学会発表予定). 4)我々がクローニングした転移マーカーのプロテアーゼ(CLN2)は、神経外胚葉系の腫瘍(neuroblastoma, Ewing肉腫)で高発現を示した.また稀に骨肉腫でもquantative RT-PCRによる検索で高い発現を示す症例があり、それらは予後不良であった.転移との関連を検索中である. 5)浸潤能規定因子の候補としてクローニングされたAMF(群馬大学・渡辺博士よりプローブ、抗体供与)に関する解析では、腫瘍の組織系によらず、AMF高発現群では肺転移の頻度が高く、予後不良であった.現在、これらの因子を包括した多変量解析を行っている。
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