家族性大腸ポリポージス(FAP)に甲状腺腫瘍が合併することは以前より知られていたが、1994年、Harachらがその甲状腺に特異的な組織型が認められることを報告した。我々のグループでは、本年度までにこうした症例をFAP患者から16例集積し、その組織形態を詳細に観察、臨床病理学的な検討を行った。その結果、1)若年女性に発生し小型の腫瘍が両葉にわたり多発する、2)リンパ節転移を生じる頻度は低く、予後は良好、といった臨床的な特徴の他、3)cribriform-morular variantと称される特徴的な組織形態をとること、が確認できた。そこでこうした形態を知ることで、甲状腺腫瘍の組織像からFAPの存在を指摘できると考え、実際に甲状腺穿刺吸引細胞診の結果のみからFAPを指摘できた症例も経験した。 そこで、今度は逆にこの特徴的な形態を有する甲状腺腫瘍を、伊藤病院のファイルの中から15例抽出した。するとこれらのうち2例にFAPが確認され、7例にはポリポージスが認められなかった(残りの6例のFAPの有無は不明)。FAPを伴う例と伴わない例、両者の甲状腺の組織所見は全く同一に見える。現段階では、甲状腺腫瘍の組織像のみではFAPの存在を確実に予想することは困難と言わざるを得ない。しかし、今年度の結果から、この組織像に遭遇した際は、FAPの可能性を念頭におき、積極的に大腸ファイバーあるいはAPC mutationの検索を行うべきであると結論した。
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