家族性大腸ポリポージス(FAP)に甲状腺腫瘍が合併することは以前より知られていたが、1994年、Harachらがその甲状腺に特異的な組織型が認められることを報告した。我々のグループでは、本年度までにこうした症例をFAP患者から16例集積し、その組織形態を詳細に観察、臨床病理学的な検討を行った。その結果、1)若年女性に発生し小型の腫瘍が両葉にわたり多発する、2)リンパ節転移を生じる頻度は低く、予後は良好、といった臨床的な特徴の他、3)cribriform-morular variantと称される特徴的な組織形態をとること、が確認できた。そこでこうした形態を知ることで、甲状腺腫瘍の組織像からFAPの存在を指摘できると考え、実際に甲状腺穿刺咳引細胞診の結果のみからFAPを指摘できた症例も経験した。 本年度はmoruleで認められる"nuclear clearing"に着目した。この箇所を透過型電子顕微鏡により観察すると、約100nm長のmicrofilamentが多数存在していた。clearingの部分では免疫組織学的にbiotinが蓄積されていることが確かめられているが、これとfilamentの関係は未だ不明であり、今後も追求する予定である。またFAP合併甲状腺癌の患者の親子例において、血液と甲状腺腫瘍組織よりAPC geneのgermlineおよびsomatic mutationの有無をそれぞれ検討した。すると、germline・somaticいずれのmutationもこれまで報告のない領域で確認された。こうした結果は本例で認められる特異な形態を示す甲状腺腫瘍の成り立ちを考察する上で重要なデータとなりうると思われる。
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