研究概要 |
癌の病理学的研究においては形態観察から始まり、免疫染色を用いた形質やin situ hybridizationによる遺伝子発現、PCR法などによる遺伝子自体の検討が広く行われている。保存されている各種癌のパラフィンブロックはその臨床情報を含め貴重な財産である。組織マイクロアレイは既存のパラフィンブロック円柱状の小組織片を採取し、新しいパラフィンブロックに包埋し直す方法である。この方法を用いると数百におよぶ組織片を一つのブロック内に包埋することが可能となる。この研究では組織マイクロアレイを癌の病理学的検討にどのように応用することが可能であるかを検討した。多くの症例を一度に染色し、比較検討できるというこの方法の長所を生かして、まず多臓器のホルマリン固定組織のパラフィン切片を用いた免疫染色やin hybridizationの至適条件を決定することを用いた。次に乳癌症例271例から組織マイクロアレイを作製して、in situ hybridizationによりアポトーシス関連遺伝子のDJ-1発現をin situ hybridizationにより、HER2,エストロゲンレセプター、プロジェステロンレセプターの発現を免疫染色によって検出し、その関連を検討した。その結果DJ-1の発現とHER2との間には関連が見られなかったが、乳癌の予後因子である組織型、リンパ節転移、ホルモンレセプターの発現との間には関連を認め、DJ-1が乳癌の悪性度に関連する因子であることが示唆された。 このように組織マイクロアレイは多数例における遺伝子発現やその分布状態などを簡単に比較できる方法であり、癌の病理学的検討において形態との関連も含めて非常に有用な方法であることは明らかとなった。当初の予定より進捗が遅れたが今後も研究を継続してさらに多くの情報を得ることができると思われる。
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