【目的】川崎病冠状動脈病変の内、発症早期の瘤形成に至る動脈構築破綻に関与する諸因子を病理組織学的に検討すること。【対象と方法】8川崎病急性期死亡症例(発症から死亡迄:6日〜32日)を検索対象とした。これらの冠状動脈組織切片に対してHE、EvG、AM染色に加えて好中球エラスターゼ、マトリクスメタロプロテナーゼ(MMP-9)、CD3、CD20、CD68に対する抗体を用いて好中球、リンパ球、マクロファージを免疫組織化学的に同定し経時的変化を観察した。【結果】エラスターゼあるいはMMP-9陽性の分葉白血球(好中球)は発症10病日死亡例の動脈壁内で最も強い浸潤を認め、以降の症例では徐々にその数を減じていった。10病日例における冠状動脈には汎血管炎が生じているものの瘤形成はみられなかった。一方、CD3、CD20陽性リンパ球ともに浸潤のピークは17病日死亡例であった。CD68陽性マクロファージのピークも17病日であったが、検索した症例の全てで顕著な浸潤を伴っていた。【考察】これまでの検索から川崎病冠状動脈病変は発症後9-10日で汎血管炎が生じ12日前後に瘤が完成することが判明している。また、既報告の通り今回の検索においても急性期死亡例の動脈病変内に浸潤していた細胞の主体はマクロファージであった。この点で川崎病動脈炎は他の多くの血管炎疾患で観察されるような好中球が前面に立つ炎症とは異なる。しかしその一方で、動脈瘤形成時期に一致したピークを示す好中球浸潤が確認された。マクロファージのみならず好中球から産生・放出される諸酵素が動脈構築を破壊することで瘤形成に関与している可能性がある。
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