Nm23-H1は齧歯類のメラノーマにおいて腫瘍転移抑制遺伝子として単離されたが、その機序や転移との相関は必ずしも明らかではない。これまでに、nm23-H1はRac1のヌクレオチド交換因子であるTiam1と細胞質内で複合体を形成することを見いだし、nm23-H1の過剰発現により、Tiam1によるRac1の活性化が阻害されることを確かめた。これらの結果をもとに、マウス個体を用いた実験でTiam1発現腫瘍細胞の浸潤、転移に対してnm23-H1の発現が実際にどの程度影響するかを検索するための準備をおこなった。Tiam1の発現により浸潤能が促進すると報告されているマウスリンパ腫細胞(BW5147)に外来性にTiam1を導入することで、親株と比較し細胞移動能が昂進し、単層中皮細胞層への浸潤能が促進された細胞株を作成した。さらに同細胞および親株にnm23H1をさらにTet-Offシステムで導入し、テトラサイクリン除去下において安定過剰発現する株を作成した。また、nm23H1におけるTiam1との結合部位はnm23H1のキナーゼ領域ではないため、Tiam1との結合能を欠如し、NDPキナーゼ活性は阻害されない変異体を作成し、同変異体のTet-Off腫瘍細胞も作成中である。今後ひきつづいて、これらの腫瘍細胞を用いて単層中皮細胞層への浸潤能アッセイを行うと共に、コントロールのテトラサイクリン投与マウス、および非投与マウスに接種し血行性転移を比較検索する。
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