研究概要 |
我々は昨年、ARPPの正常組織における発現を調べ、mRNAレベルでは骨格筋と心臓に限局することを見い出し報告した(Moriyama et al.,2001)。さらに抗ARPP抗体を用いた免疫組織化学により発現を詳しく調べたところ、骨格筋では陽性筋繊維の横紋に一致して局在し、また筋繊維の核にもしばしば陽性シグナルを検出した(Ishiguro et al.,2002)。筋肉組織の横断面で観察したところ、陽性筋繊維と陰性筋繊維がモザイク状に分布していた。これらの切片を1型筋繊維(遅筋)を特異的に認識する抗体と2型筋繊維(速筋)を特異的に認識する抗体を用いてそれぞれとARPP抗体との二重免疫組織化学により解析したところ、ARPP陽性筋繊維と1型筋繊維はよく一致し、ARPPは1型筋繊維にほぼ特異的に発現することが明らかになった(lshiguro et al.,2002)。さらに我々はマウスARPP遺伝子を単離してヒトでみられたARPP発現パターンがマウスでも同様であることを示した(Tsukamoto et al.,2002)。そこでマウスの座骨神経を切断してその支配筋が萎縮する過程におけるARPPの発現を調べたところ、神経切断後1週目で明らかに発現の亢進がみられ、2週目以降その発現亢進が維持されることを発見した。免疫組織化学的に観察したところ、ほとんどすべての筋繊維がARPP陽性を示し、ARPP陰性筋繊維が神経切断後の筋萎縮過程で陽性化することが明かとなった(Tsukamoto et al.,2002)。さらに最近、種々の筋疾患(先天性ミオパチー、ネマリンミオパチーなど)でARPPが高発現することを見い出した(Nakada et al.,in preparation)。以上の結果から我々は、ARPPは骨格筋の萎縮や肥大に重要な働きを示す可能性があると考えている。現在、ARPP遺伝子の欠失したマウス(ノックアウトマウス)を作製中で、すでにtargeting vectorを導入したES細胞を胚盤胞へマイクロインジェクションし、キメラマウスを得ている。今後ARPP+/-ならびにARPP-/-マウスの作製まで完成させる。
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