プリオン病は、神経細胞表面に発現する糖蛋白の一種であるプリオン蛋白(PrPC)からできた異常蛋白分解抵抗性プリオン蛋白(異常型プリオン;PrPSc)が病原因子の実体であると考えられているが、PrP遺伝子発現部位とPrPScの蓄積部位の間には必ずしも相関はなく、PrPScへの変換を抑制する因子の可能性が示唆される。平成15年度では、そうした臓器の一つである腎臓におけるプリオン感染腎に特異的に発現している遺伝子を、PCR-selected cDNA subtraction法を用いて検討すると共に、以前、我々が同定したDoppel/PrPLPが、PrPScへの変換に関与しているかを調べるために、transgenic mouseの作成を行った。PrPScへの変換を抑制する因子そのものは同定出来なかったが、感染腎では、NADH oxidase、cytochrome oxidaseが高発現しており、腎組織や尿中にproteinase K抵抗性蛋白が存在することより、Kelkerらが報告しているtNOXと類似機構が働いている可能性が考えられた。そこで、感染細胞にtNOXに拮抗的に働くcatechinを投与すると、PrPScへの変換が抑えられることが証明されたため、感染マウス脳に直接投与して検討した結果、生存日数が有意差はないものの延びる傾向にあり、効果があると思われた。また、osteopontin/Eta-1の過剰発現も認められたが、直接的にPrPScへの変換が抑える効果は見出せなかった。
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