研究概要 |
1)Membrane type 1 matrix metalloproteiase(MT1-MMP)発現の細胞間接着による制御について 先頭の細胞特異的なMT1-MMP発現に対するアクチン線維形成(強固な細胞接着形成)の影響を検討するため、cohort migration (CM)を24時間誘導した後、アクチン重合の阻害因子であるサイトカラシンD処理を行い、さらに12時間培養した後に、in situ hybridizationにてMT1-MMP発現の変化を観察すると、強固な細胞接着の維持はMT1-MMPの先頭への発現に必須ではないことが示された。(各シグナル経路の詳細については平成14年度報告書参照) 2)癌細胞の集団移動(Cohort migration, CM)における細胞間接着の部分的解離機構について Rac1-dominant negative (DN)導入ヒト大腸癌細胞クローンは、hepatocyte growth factor/scatterfactor (HGF/SF)刺激によって、mock導入細胞株、野生型細胞株よりも強いcohort migration能を呈し、E-cadherinとcomplexを形成したIQGAP1量は増加していた。Rac1-dominant active (DA)導入株は、HGF/SF刺激によるcohort migration能は低下し、E-cadherinに結合したIQGAP1量は減少していた。これらの各大腸癌細胞クローンを用いたヌードマウスでの増殖、浸潤、転移に関する検討は現在継続中である。 3)ヒト癌における予後因子としてのIQGAP-1について 3-1)病理学的ステージpT2-3の大腸癌91例において、IQGAP1の発現パターンを分類すると、無発現群6例、びまん発現群17例、浸潤先端高発現群30例、ランダム発現群38例で、浸潤先端高発現群では高率にリンパ節転移を認め(75%)、びまん発現群では遠隔転移が多く、5年生存率はランダム発現群と比較して統計学的有意に低かった。 3-2)卵巣腺腫17例、境界悪性腫瘍30例、腺癌80例におけるIQGAP1の免疫組織化学的解析では、その発現パターンを巣状型(focal)とびまん型(diffuse)に分類できた。腺癌では、腺腫、境界悪性腫瘍と比較して有意に発現レベルが高く、びまん高発現型では有意に5年生存率が低かった。多変量解析において、IQGAP1高発現、びまん型発現は独立した予後因子であった。 大腸癌、卵巣癌での、IQGAP1の発現解析を通して、IQGAP1発現がこれらの癌の浸潤、転移に関与しており、悪性度と予後の新たな指標と成り得ることが明らかになった。
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