研究概要 |
国内外におけるこの10年の研究により,現在までに200以上のクラスI拘束性腫瘍抗原ペプチドが報告されている。そのうちの幾つかは,すでに臨床治験に用いられ,新たな治療法として期待されている(Ikeda, in press)。われわれはこれまでに,メラノーマ,胃癌,さらに口腔領域扁平上皮癌の系より癌抗原ペプチドの単離を報告してきた(池田,in press)。最近は膵癌の系を解析し,抗原がHLA-A26に提示されている可能性を報告した(Kashiwagi et al.,in press)。一方,CD4陽性T細胞に認識されるクラスII拘束性腫瘍抗原は,メラノーマ,白血病以外の癌腫から単離された抗原はほとんど皆無であり,Squamous cell carcinoma(SCC)より同定され,HLA-DR^*0803に提示されること強く示唆されているalpha-enolaseが数少ない例外である(Kondo et al,2002)。CD4陽性T細胞の認識する腫瘍抗原の単離同定を一層進める必要性があるが,安定したCD4陽性細胞をin vitroにて樹立・維持するためには,腫瘍細胞のクラスII発現機構に対する理解が必要不可欠である。 最近われわれは,SCCにおけるクラスIIの発現とクラスII発現を制御しているCIITA(Class II transactivator)遺伝子の発現を詳細に検討した。SCC細胞の多くがCIITAプロモーター領域に,エピジェネティックな変化を来たしており,その結果クラスIIの発現が低下していること,その変化はこれまでに報告されてきたメチル化によるものではなく,ヒストン脱アセチル化によるものであることを初めて報告した(Kanaseki et al.,in press)。一方,神経膠芽腫は,SCCとは異なる機構により,クラスII遺伝子およびCIITA遺伝子発現機構が調節されていることを明らかにしつつある。これらの実験事実に加え,われわれはあらたに,咽頭原発扁平上皮癌株STK-1,神経膠芽腫細胞株TG-1,2を樹立した。CIITA移入自家癌細胞を用いて,同患者末梢血由来リンパ球を頻回刺激することにより,腫瘍細胞株を特異的に傷害する自家の細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導し,これらより新規SCC,神経膠芽腫抗原同定を現在目指している。
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