血管内皮細胞間をシールするタイト結合は血液組織関門に必須であり、その破綻は脳浮腫や癌の血管外脱出等さまざまな病態の原因や修飾因子となると考えられている。血管内皮には多くのタイト結合構成分子が発現しているが、血液組織関門の形成や制御の分子メカニズムはよく分かっていない。我々は、ブタ血液脳関門(BBB)内皮細胞を用いて、cyclic AMP (cAMP)によるプロテインキナーゼA(PKA)活性化が内皮特異的タイト結合分子claudin-5のリン酸化を誘導し、cAMPがPKA非依存性にclaudin-5の遺伝子発現を増加させ、内皮バリアを亢進することを明らかにした。また、claudin-5のC末細胞内領域にPKAのリン酸化候補部位(RRPT^<207>)を見出し、野生型及び変異型claudin-5の発現を誘導できるラット肺血管内皮(RLE)細胞株を樹立した。その結果、claudin-5の発現によって分子サイズ選択的な内皮バリアが再構成されること、PKAがclaudin-5のThr^<207>を標的として内皮バリアを制御することを明らかにした。一方、MAPキナーゼも血管内皮や上皮のバリア機能を調節することが知られているが、その標的分子は明らかではない。我々は、claudin-1のC末細胞内領域にMAPキナーゼのコンセンサスリン酸化部位(PKPT^<203>P)を見出し、野生型及び変異型claudin-1の発現を誘導できるRLE細胞株を樹立した。この培養系を用いて、生理的レベルのMAPキナーゼはclaudin-1のThr^<203>をリン酸化させ、タイト結合のバリア機能を増強することを明らかにした。また、claudin-1とclaudin-5では、機能的に異なる内皮バリアが再構成されることを示した、我々が樹立した遺伝子発現誘導系は、血管内皮における生体分子の機能を解析する上で有用な武器となると考えられる。
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