血清刺激によるc-mycの転写亢進とTGF-βによる抑制に関与する転写制御領域となるTIE/E2F配列とWNTシグナルによるc-mycの転写亢進の標的配列のひとつであるTBE3配列を同定した。TGF-βよってSmad3が活性化されると、Smad3は直接TIE/E2F配列に結合し、E2F-4と転写共役因子p300の結合を解離させた。また、TBE3上にTCF-4が結合している場合にはTCF-4とSmad3の結合によってβ-カテニンがTCF-4から解離しc-mycの転写がオフになるが、LEF-1の場合にはSmad3とβ-カテニンの両者を同時に結合しc-mycの転写がオンのままであることを見いだした。この発見により、大腸癌細胞でLEF-1の発現が亢進すると、TGF-βによるc-mycの転写抑制が解除されることが示唆された。 Smad2D450Eは、大腸癌で報告されたSmadの点突然変異体で、受容体によってリン酸化されない。この変異Smad2は、共存する野生型Smad2のリン酸化を抑制したが、Smad3のリン酸化は抑制せず、Smad3とSmad4の複合体形成も低下しなかった。しかし、Smad2D450Eの安定発現細胞株は、Smad3を介する標的遺伝子の活性化も低下しており、標的DNAへのSmad3の結合もSmad2の間接的結合と同様に低下していた。以上より、Smad2D450Eは、核移行或いは核内の段階でSmad3の機能を抑制することが示唆された。 TGF-βによって転写が抑制されるc-myc遺伝子の発現に対して、c-Skiは、転写の抑制を解除することを見い出した。c-Skiのこの作用は、既存の作用機序では説明がつかず、新たなc-Skiの作用機序として、不活性なc-Ski-Smad複合体が標的遺伝子上に長く留まることによるSmadの機能の抑制の存在を示唆した。
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