Simian TTウイルス(s-TTV)のヒト感染の分子疫学とその病態解明

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14570209
• 研究機関: 国立感染症研究所
• 研究代表者: 阿部 賢治 国立感染症研究所, 感染病理部, 主任研究官 (60130415)
• キーワード: TTV / Simian TTV / 分子疫学 / 人獣共通感染症

研究概要

【目的】近年、輸血後非A〜G型肝炎患者血清から新たなヒトDNAウイルスとしてTTウイルス(TTV)が分離された。しかし、TTV感染の病態に関しては不明な点が多い。最近我々は、ヒト以外の霊長類からTTVを分離し、その5'UTRにおける塩基配列の解析からTTVとは異なることを明らかにし、simian-TTV(s-TTV)と命名した(J Virol74:1549-1553,2000)。このs-TTVの人体感染の可能性を探ると共に肝疾患との係わりについて、分子疫学的に検討することを目的とした。今年度は、海外におけるs-TTVの分子疫学的調査を実施した。
【方法】4ヶ国(ベトナム、ミャンマー、スペイン、中国)の健常人と肝疾患患者から収集した血清、計814例を対象とした。血清100μlから核酸を抽出した後、s-TTVに特異的なプライマー(5'UTRからデザイン)を用いたnested PCR法にてs-TTV DNAを増幅した。陽性を示した一部例について、PCR産物を用いたダイレクトシークエンスを行い塩基配列を決定した。得られたゲノムの特徴を、木村の8パラメーター法で遺伝的距離を確定し、近隣接合法を用いて分子系統樹解析を行った。
【成績】各国のs-TTV陽性率は、ベトナム:健常人13/146(8.9%)、肝疾患群30/143(21%)、ミャンマー:健常人5/110(3.6%)、肝疾患群4/48(8.1%)、スペイン:健常人4/104(3.8%)、肝疾患群8/71(11.3%)、中国:健常人3/113(2.7%)、肝疾患群12/79(15.2%)であった。いずれの国でも慢性肝疾患が進展するにつれ、陽性率の上昇を認めた。多くの症例は、HBV、HCV感染を伴わないs-TTV単独感染例であった。さらに、PCR陽性産物の塩基配列を決定した結果、チンパンジー由来のs-TTVプロトタイプ(CH65-1)と85%以上の相同性を示した。また分子系統樹解析においては、ヒト由来s-TTVはサル由来s-TTVと同一集簇を形成したが、TTVとは明らかに区画され、しかも二つの異なるゲノタイプに分類された。
【考案】s-TTVは地理的条件が異なっても、各国において感染していることが示された。しかも、検索したいずれの国でも肝疾患患者での陽性率が高かった。s-TTVと肝疾患の関連が示唆される成績である。

研究成果

• [文献書誌] Yoko Iwaki, et al.: "Simian TT virus(s-TTV)infection in patients with liver diseases."Hepatology Research. 25. 135-142 (2003)
• [文献書誌] Tran TT Huy, et al.: "Prevalence of hepatitis virus types B through E and genotypic distribution of HBV and HCV in Ho Chi Minh City, Vietnam."Hepatology Research. 26. 275-280 (2003)
• [文献書誌] Makoto Hirano, et al.: "Evidence for widespread infection of hepatitis E virus among wild rats in Japan."Hepatology Research. 27. 1-5 (2003)
• [文献書誌] Tran TT Huy, et al.: "High prevalence of the hepatitis B virus pre-S mutant in countries where it is endemic and its relationship with genotypes and chronicity."Journal of Clinical Microbiology. 41. 5449-5455 (2003)
• [文献書誌] Naoto Aiba, et al.: "Complete nucleotide sequence and phylogenetic analyses of hepatitis B virus isolated from two pileated gibbons."Virus Genes. 27. 219-226 (2003)
• [文献書誌] Xin Ding, et al.: "Present state of hepatitis E virus epidemiology in Tokyo, Japan."Hepatology Research. 27. 169-173 (2003)