研究概要 |
【目的】最近我々は、ヒト以外の霊長類からTTVを分離し、その5'UTRにおける塩基配列の解析からTTVとは異なることを明らかにし、simian-TTV(s-TTV)と命名した(J Virol 74:1549-1553,2000)。このs-TTVの人体感染の可能性を探ると共に肝疾患との係わりについて、分子疫学的に検討することを目的とした。 【方法】平成14年度は日本国内、15年度は海外4ヶ国(ベトナム、ミャンマー、スペイン、中国)の健常人と肝疾患患者から収集した血清、計1,274例を対象とした。血清100μlから核酸を抽出した後、s-TTVに特異的なプライマー(5'UTRからデザイン)を用いたnested PCR法にてs-TTV DNAを増幅した。陽性を示した一部例について、PCR産物を用いたダイレクトシークエンスを行い塩基配列を決定した。得られた遺伝子の特徴を分子系統樹解析を行った。 【成績】まず日本国内における健康成人でのs-TTV陽性率は、3/200(1.5%)であったのに対し、肝疾患群では18/260(6.9%)と高値を示した。疾患別における感染率は、慢性肝炎10/217(4.6%)、肝硬変4/28(14.2%)、肝癌4/12(33.3%)であった。10/18(55.5%)がHBVおよびHCVの重複感染を伴わない単独感染であった。成因不明の肝疾患では、10/151(6.6%)にs-TTVが検出された。また海外では、ベトナム:健常人13/146(8.9%)、肝疾患群30/143(21%)、ミャンマー:健常人5/110(3.6%)、肝疾患群4/48(8.1%)、スペイン:健常人4/104(3.8%)、肝疾患群8/71(11.3%)、中国:健常人3/113(2.7%)、肝疾患群12/79(15.2%)であった。いずれの国でも慢性肝疾患が進展するにつれ、陽性率の上昇を認めた。多くの症例は、HBV、HCV感染を伴わないs-TTV単独感染例であった。さらに、PCR陽性産物の塩基配列を決定した結果、チンパンジー由来のs-TTVプロトタイプ(CH65-1)と85%以上の相同性を示した。また分子系統樹解析においては、ヒト由来s-TTVはサル由来s-TTVと同一集簇を形成したが、TTVとは明らかに区画された。ヒトおよびサル由来s-TTVの集団は、二つの異なるゲノタイプに分類された。 【考案】s-TTVがヒトにおいても感染していることが明らかになった。しかも、肝疾患患者での陽性率が有意(p<0.006)に高かった。この事実は、TTVと肝疾患との関連を考える上で興味ある所見である。また人獣共通感染症として、その感染経路の解明が今後重要である。
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