研究概要 |
蛋白質脱イミノ化酵素(PAD)は、タンパク質中のアルギニン残基をシトルリン残基に脱イミノ化する酵素である。蛋白質脱イミノ化反応は、正電荷を失うことから、蛋白質の高次構造に著しい変化をもたらす。生体内には4種類のアイソフォーム(I,II,III,IV型)が存在し、活性化にカルシウムイオンを必要とする。特に、II型PADは脳全体に広く分布し、他型PADは検出されない。本課題では、神経変性疾患に於ける脱イミノ化蛋白質の生成、PAD活性化機構を解明し疾患発症に於けるPADの関与を明らかにすることを研究目的としている。今年度、以下に示す研究成果を得ている。 (1)脱イミノ化蛋白質の抗体を用いたウエスタン法による解析から、アルツハイマー病(AD)の患者脳では分子量約35-50kDaに多くの脱イミノ化蛋白質が検出された。一方、非AD患者では脱イミノ化蛋白質がほとんど認められなかった。AD患者の脳では、脱イミノ化蛋白質が多く蓄積している。 (2)II型PADはAD患者、非AD患者ともに検出された。しかし、その量はAD患者脳で異常に増加していた。これは、AD患者脳でのPADの異常な活性化を強く示唆している。 (3)免疫組織染色の結果、AD患者の海馬領域では、脱イミノ化蛋白質が強染された。細胞の形態からグリア細胞の1つであるアストロサイトが陽性であった。また、II型PADの染色でもアストロサイトが強染され、脱イミノ化蛋白質の染色と一致した。 (4)II型PADノックアウトマウス作製のための遺伝子コンストラクトを完成し、ES細胞に導入した。 AD患者の脳では、神経細胞の脱落によりグリア細胞の浸充が見られる。II型PADはグリア細胞に多く存在し、一過的な細胞内カルシウム濃度の上昇により活性化され、脱イミノ化蛋白質が出現すると考えられる。今後はこの研究成果を踏まえ、脱イミノ化蛋白質が神経細胞に対して直接的に毒性を示すかどうかを明らかにする。
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