研究概要 |
本研究ではブタ回虫を用い、酸素分圧に応答する蛋白群、とくにエネルギー生成系や、酸素代謝に直接関与する酸化還元系蛋白の発現制御を包括的に解析することによって、好気から嫌気的代謝への転換の分子機構を解明するのが目的である。そのため、エネルギー生成系の中心的オルガネラであるミトコンドリアと重要な酸化還元蛋白を対象とし、本年度は、1.昨年度に確立したNycodenz密度勾配遠心法によって得られた、回虫成虫体壁ミトコンドリアを用いてのプロテオーム解析、および昨年度から引き継いだ 2.感染幼虫と宿主肺から回収した幼虫のミトコンドリアのプロテオーム解析を計画した。 以下に項目ごとに実績概要を述べる。1.回虫成虫体壁ミトコンドリア蛋白を一次元の等電点電気泳動(pH3-10Linear,11cm,22.5kVh)、二次元目のSDS-PAGE(10% gel,16.5x16.5cm,48mA-5hr)で展開し、分離した蛋白を銀染色で検出した。2.については感染幼虫の細胞分画を1.と同様な方法で行なったが、強靱なクチクラ層の存在のために組織破砕が十分でなく、成功するには至らなかった。そこで当初の計画を変更し、大量培養が可能で回虫感染幼虫と同様に好気的代謝を行う自活性線虫C.elegansを用いて細胞分画の条件を検討したところ、高純度のミトコンドリア分画を得ることに成功した。本分画をもちいて1.と同様な条件で二次元電気泳動をおこない、主要な蛋白スポットを選びin-gel digestion、質量分析計によってミトコンドリア蛋白の同定とマッピングを行った。C.elegansミトコンドリア蛋白の二次元電気泳動パターンは回虫成虫ミトコンドリアと比較して著しく異なっていることが明らかとなった。また、C.elegans由来であることが確定できた14スポットのうち11はミトコンドリアに局在する蛋白と同定できた。これまで解析したC.elegans由来の蛋白のうち、約80%がミトコンドリア局在の蛋白といえる。現在、他の主要なスポットを順次解析中である。
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