1.平成14年度のDNAマイクロアレイ法を用いた研究で、Trypanosoma cruzi感染細胞では宿主アポトーシス経路の初期過程を抑制する遺伝子c-FLIPの転写が上昇し、さらにそのタンパク質含量が顕著に増加していることが明らかとなった。c-FLIPが本アポトーシス抑制の主要な因子であるかどうかを調べるため、RNAiの手法を用いc-FLIPをノックダウンしたところ、感染細胞でアポトーシス抑制が解除された。この結果はT.cruziが宿主抑制因子c-FLIPを利用することによりアポトーシスを抑制し、自らが生き残っていく可能性を示している。 2.感染細胞におけるc-FLIPの作用機構を詳細に検討した。感染細胞ではFas刺激によりFas受容体の3量体化が正常に起こり、さらにFas、アダプター分子FADD、プロカスペース-8から成る複合体が形成されることが示唆された。しかし、プロカスペース-8の加水分解によって生じる活性型カスペース-8が検出されず、その結果としてその下流のアポトーシス経路が抑制されることが明らかとなった。 3.ラットにT.cruzi Sylvio X10/7株またはSylvio X10/4株を感染させ、急性期および慢性期動物実験モデルを作製した。急性期モデルでは感染7日後、慢性期モデルでは感染350-370日後に心臓を摘出し組織切片を作製した。TUNEL法を用いて染色したところ、急性期ではリンパ球系の細胞でアポトーシスが観察されたが、感染細胞でアポトーシスを起こしているものは認められなかった。これはin vitroにおける結果と一致している。慢性期モデルではアポトーシスを起こしているものは検出できなかった。 以上、T.cruzi感染細胞における宿主アポトーシス抑制因子としてc-FLIP分子を同定し、その作用機構の一部を明らかにした。
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