1.Trypanosoma cruzi感染、非感染細胞におけるアポトーシス関連遺伝子の発現の差異をDNAマイクロアレイ法により比較したところ、感染細胞では、insulin-like growth factor結合タンパク質5、6、mitogen-activated protein kinase、cellular FLICE inhibitory protein(c-FLIP)遺伝子の発現が増加し、GAPDH、cyclinD2遺伝子の発現が減少していた。また、Fasによりアポトーシスを誘導すると、アポトーシスを誘導する遺伝子群(カスペース、I-κB、細胞増殖抑制遺伝子等)、抑制する遺伝子群(アポトーシス抑制遺伝子IAP、c-FLIP、bcl-W、細胞増殖促進遺伝子等)両者の発現が上昇した。T.cruzi感染は宿主アポトーシス経路の初期過程を抑制するので、初期抑制遺伝子として知られるc-FLIPに着目した。 2.T.cruzi感染細胞ではc-FLIPの転写が上昇し、さらにそのタンパク質含量が顕著に増加していた。c-FLIPが本アポトーシス抑制の主要な因子であるかどうかを調べるため、RNAiの手法を用いc-FLIPをノックダウンしたところ、感染細胞でアポトーシス抑制が解除された。この結果はT.cruziが宿主抑制因子c-FLIPを利用することによりアポトーシスを抑制し、自らが生き残っていく可能性を示している。 3.ラットにT.cruzi Sylvio X10/7株またはSylvio X10/4株を感染させ、急性期および慢性期動物実験モデルを作製した。急性期モデルでは感染7日後、慢性期モデルでは感染350-370日後に心臓を摘出し組織切片を作製し、TUNEL法を用いて染色したところ、急性期ではリンパ球系の細胞でアポトーシスが観察されたが、感染細胞でアポトーシスを起こしているものは認められなかった。これはin vitroにおける結果と一致している。慢性期モデルではアポトーシスを起こしているものは検出できなかった。
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