赤痢アメーバが感染して病原性を発揮するには、宿主細胞に接着することが必須の過程である。我々が同定した赤痢アメーバの150-kDaレクチン(Ig11)について、全長[シグナル配列を除くamino acid(aa)14-1088]、N末端側(aa 14-382、N断片)、中央部(aa 294-753、M断片)、C末端側(aa 603-1088、C断片)に相当する組換え蛋白質を大腸菌で発現させた。4種類の組換え蛋白質と患者血清との反応性を、ELISAで調べた。健康人対照血清のOD平均値+3SDをcut-offとした結果、全長蛋白質を用いた際の感度は90%、特異性は94%であった。また、3つの断片を用いた場合の感度は、N断片で56%、M断片で92%、C断片では97%であった。一方、特異性はN断片では96%、M断片とC断片では99%であった。全長蛋白質、M断片、C断片に対して、無症候性赤痢アメーバ嚢子排出者の血清は全例が陽性反応を示し、M断片とC断片に対して偽陰性を示したのは、アメーバ性大腸炎患者の血清だけであった。従って、M断片やC断片上のエピトープを認識する抗体が、アメーバ虫体の組織侵入阻止に関与している可能性が示唆された。また、組換えC断片は、血清診断用の抗原としても有用であると考えられた。赤痢アメーバの接着を阻止できるマウスモノクローナル抗体と組換え蛋白質との反応性を調べた結果、エピトープの一つはaa989-1088の範囲に存在することが明らかになった。大腸菌で調製したIgl1の全長組換え蛋白質でハムスターを免疫した後、肝臓に栄養型虫体を接種して肝膿瘍形成の抑制効果について検討したが、有意な効果は認められなかった。Native Iglによる免疫は有効であることから、ワクチン効果を発揮するには糖鎖も必要であると考えられた。また、病原性のないEntamoeba disparにも2つのIgl遺伝子が存在し、それぞれ1110、1106アミノ酸をコードしていた。赤痢アメーバのIgl1とはアミノ酸レベルで73%の相同性を示したが、約12%含まれるシステインはすべて保存されていた。
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