研究概要 |
我々は太平洋島嶼コミュニティにおける人、マラリア原虫および媒介蚊の様々な遺伝学的多型のマラリア対策上の意義について、「サハラ以南アフリカ」vs.「メラネシア」の比較を試みつつ検討してきた。究極的には島嶼マラリアの特性に適する対策戦略構築を目指してきた。 IIヴァヌアツ島嶼における獲得免疫形成に関与する原虫多様性:熱帯熱マラリア原虫merozoite surface protein 1(MSP1)のヴァヌアツ4島嶼における地理的および時間的変異動態について、クロロキン耐性候補遺伝子変異(K76T in pfcrt)との比較において検討した。少なくとも過去30年間はあらたなSNP sは発生しておらず、SNP sが抗原遺伝子においてはそれほど急速に発生するものでないことが示唆された(Tanabe 2004)。この結果は今後のマラリアワクチン開発およびその有効性に重要な意義を持つと考えられた。 II.マラリア流行が繰り返されているケニア西部高地境界地域において個々の村落における5歳以下小児の貧血率は1,440mにおける57%から2,040mの11%へ推移し、高度と負の相関が認められた(r=0.88,p<0.05)。同様に熱帯熱マラリア感染率は31%から0%へ推移した(r=-0.93,p<0.01)低高度村落において貧血は5歳以下小児に最も高率に認められ(34%)、出産可能年齢女性がこれに続いた(16%)。重症貧血(Hb<8g/dl)は調査住民の1.5%に認められ、この内90%は低高度村落居住者、70%は5歳以下小児しかるに20%は出産可能年齢女性であった。これら重症貧血群においてはHb濃度の低栄養による更なる減少が認められた(Akwale, in press)。 IIIヴァヌアツにおける島嶼マラリア根絶可能性と残存免疫:1991年開始のアネイチュウム島における対策とその後9年間の調査は、島嶼マラリア根絶可能性を示した(Kaneko 2000)。Malaria-freeは2001年まで維持されたが、しかし2002年三日熱マラリアの集団発生が現地より報告され、我々は新たな臨床寄生虫学的調査を行うとともに、住民の免疫状態について評価を行った。アネイチュウム島における1998年のP.falciparum粗抗原に対する住民IgG抗体調査は過去7年間感染暴露がない成人における抗体価残存を示した2002年全住民760名中22名のP.vivax感染者を見出した。陽性者はすべて17歳以下で加齢に従う陽性率低下を認めた。この結果は、Malaria-freeが10年間維持されたにも関わらず、成人に認められた残存する免疫が防御的であることを示唆する。
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