ニューモシスチス・カリニ(Pc)は日和見な病原体であり、HIV感染症を含む免疫不全症例において重篤な感染症を惹起する。Pc肺炎に対する治療・予防の第一選択として、ST(sulfamethoxazole/trimethoprim)合剤が利用される。同剤を構成するsulfamethoxazole及びtrimethoprimの標的は、葉酸の合成経路における主要酵素であるdihydropteroate synthase(DHPS)及びdihydrofolate reductase (DHFR)である。私達は、これまでに、PcにおけるDHPS領域のアミノ酸変異がPc肺炎に対するST合剤の治療成績低下と関連することを報告した。今回、PcにおけるDHFR領域のアミノ酸変異の有無とPc肺炎に対するST合剤の治療結果との関連性を解析した。その結果、同領域のアミノ酸変異は認められたが、ST合剤による治療成績低下との関連性は見られれなかった。今後は、さらに解析する検体及び症例数を増やして、薬剤標的酵素のアミノ酸変異とST合剤による治療成績低下との関連性を検討していくことが重要である。 Pcと同様に酵母様真菌に属するクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cn)も、気道を侵入門戸として免疫不全症例に対して重篤な感染症を惹起する。今回、HIV感染症を含む免疫不全症例におけるPc及びCnの気道定着の状況を検討した。その結果、HIV感染症に対して、Pcの気道定着例を認めたが、Cnの気道定着例は見られなかった。それ故、気道定着を考慮して、Pc肺炎の診断は検査結果と臨床所見に基づいて総合的に判断する必要がある。 平成15年8月より、タイ国ランパン病院においてHIV感染者を対象としたコホート研究を開始し、喀痰誘発法を用いたPcの薬剤標的酵素のアミノ酸変異の有無を解析してる。現在、対象症例を登録中である。
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