腸管病原性大腸菌EPECのヒト上皮細胞に対する付着特異性を、培養細胞を用いたin vitro感染実験系で検討し、ヒト由来細胞とマウス由来細胞との間にEPECの感染率に顕著な差があることを見いだした。ヒト以外の動物由来の細胞の中には高率で感染するものが見いだされたが、細胞をフォルマリンで前処理することによりヒト由来以外の細胞に対する感染率のみ顕著に低下した。すなわちEPECのヒト特異的感染は細胞付着初期段階における宿主細胞表面のフォルマリンにより修飾されにくい因子との相互作用により決定されていることが示唆された。さらにEPEC感染初期段階に主要な役割を担う束状線毛(BFP)がこのヒト特異的付着に必須であることを明らかにした。一方、EPECの細胞付着様式は細胞に付着後段階的に変化することが知られているが、初期付着に必須のBFPの産生は付着後徐々に消失することを見いだした。さらに細胞に付着したEPECにおける遺伝子発現の変化を追跡するため、感染細胞よりRNAを抽出しEPECの病原性遺伝子群の転写量の変化をDNA microarrayを用いて測定した。その結果、BFP合成遺伝子群の転写は感染とともに一過的に上昇するがすぐに減少した。また、次の付着段階に必須のEsp蛋白質や付着因子intiminをコードする遺伝子群の転写はBFP遺伝子群と同様に付着後上昇したが、しばらく持続し感染後期に漸く減少した。他方、病原性プラスミドのEPEC細胞内コピー数が感染後期で増加していた。以上の結果より、EPECにおいては細胞に付着後も細胞との付着様式の変化に伴い病原因子の発現が転写段階において調節されていることを明らかにした。
|