研究概要 |
細胞壁合成系に関与する因子30個についてバンコマイシンおよびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)と感受性菌についてその発現量をdifferential display法により比較検討したが著明な変化が認められなかった。バンコマイシン耐性菌がtransglycosylaseの阻害剤であるモエノマイシンにも耐性を示したことから、黄色ブドウ球菌のもつ2つのmonofunctional transglycosylase(sgtA, sgtB)について着目し、その欠損株および過剰発現株を作製し、薬剤の感受性について検討したところ過剰発現株でモエノマイシンおよびバンコマイシンに対して感受性の低下が認められた。また、モエノマイシン耐性変異株を臨床分離のMRSA5株より分離したところ、いずれの株もメチシリンの感受性の増加、バンコマイシンの感受性の低下が認められた。したがって、モエノマイシンの感受性に影響を与える因子がバンコマイシン感受性にも影響を及ぼすことが明らかになった。しかし、これらの変異株についてsgtA, sgtBの発現量には著明な変化が認められなかった。以上の結果より、sgtA, sgtBはバンコマイシン感受性には影響を与えるものの、それ以外の因子もバンコマイシン耐性に関与していることが示唆された。そこで、トランスポゾン挿入によるモエノマイシン耐性変異株を2株分離した。いずれの株もバンコマイシンの感受性の低下を認めた。トランスポゾン挿入部位を同定した結果、リシン合成に関与する遺伝子lysCと細胞膜成分の合成に関与する因子mprFにその挿入を認め、これまでに報告のない新規のバンコマイシンに影響を及ぼす因子であった。
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