研究概要 |
本研究では、結核菌を始めとする抗酸菌の表層に存在するミコール酸含有糖脂質をどのようなToll-like receptors(TLRs)が認識し、その認識にミコール酸鎖長の違いが反映するかについて検討した。Rhodococcus sp.4306株(Rho)由来のミコール酸の鎖長はM.tuberculosis(Mtb)のミコール酸の鎖長の半分(約40)であることから、それぞれからtrehalose 6,6'-dimycolate(TDM)およびtreharose6-monomycolate(TMM)を調製し、マクロファージ活性化作用およびNF-kB活性化を指標にして比較した。Rho-TDMとMtb-TDMのTNF-α産生の誘導能を比べると、Mtb-TDMの方が高い活性を示した。鎖長の長い方の活性が高かった。TMMのTNF-α産生誘導能は、Mtb-TMMおよびRho-TMM共にTDMより低かった。Mtb-TDMは、TLR4が欠損したマウスの腹腔マクロファージをTLR4が正常なものより強く刺激した。一方、TLR2ノックアウトマウスの骨髄由来マクロファージを用いた場合、今回用いたすべてのミコール酸含有糖脂質はTNF-α産生を誘導しなかった。TLR2を過剰発現したHEK293細胞を用い、NF-kBの活性化を指標としたレポーターアッセイの結果から、TMMはTLR2を介してNF-kBを活性化したが、Mtb-TDMおよびRho-TDMのNF-kBの活性化能は極めて弱かった。ミコール酸含有糖脂質はTLR2を介してシグナルを伝達していることが分かった。 TLRがリガンドを認識した後のシグナル伝達機構に関して急速に解明されてきているが、脂質ラフトの関与についての報告は少ない。マクロファージをLPSで刺激すると、TLR4が脂質ラフトに集積することを見出したので、結核菌糖脂質のlipoarabinomannan(LAM)でマクロファージを刺激すると、同様にTLR2が脂質ラフトに集積することが分かった。細胞膜のコレステロールを除去することにより脂質ラフトを破壊すると、LAMのマクロファージ活性化作用が消失したことから、TLRによるシグナル伝達機構には脂質ラフトの集積が重要であることが明らかとなった。 結核菌糖脂質のLAMは主にTLR2により、結核菌の細胞壁骨格(CWS)はTLR2およびTLR4の両者により認識されることが報告されている。それがどのような成分によるかについて明らかにするため、脂質成分をカラムクロマトグラフィーにより分画したところ、TLR4で認識される物質が存在していた。MALDI-TOF/MASSで解析したところ、数種の化合物が混在していたので、TLR4で認識される物質の単離とその構造について解析中である。
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