研究概要 |
Helicobacter pylori感染におけるクオラムセンシングシステムの役割を解明するために、本システムに関与するautoinducer-2遺伝子luxS変異株の作製を行った。luxS変異株の作製は,Ogura & Berg より分与されたTN2(luxS::cat)の染色体を鋳型にしてPCR法により増幅した1,783bpのDNA断片で,本菌TK1042株をNatural transformationで形質転換することにより行った。相同組み換えによって得られたクロラムフェニコール耐性株9株より抽出した染色体DNAを用いてPCRを行った結果,全てにluxSの変異が確認された。このうち1株をHpKY04と命名し,luxs変異株とした。 一方,H.PyloriのluxSが大腸菌においても機能するかを検討する目的で以下の実験を行った。Vibrio herveyiはAI-1およびAI-2を介したクオラムセンシングによって発光するが,AI-1のセンサー遺伝子luxNのTn5挿入変異株であるBB170にはAI-1を介した応答が存在しない。このことからBB170をレポーター株として用いることにより,AI-2の産生量を測定できる。このBB170株を用いたluminescence bioassayによりTK1042のluxS遺伝子の活性の有無を調べた。野生型luxSおよびその発現制御領域を含む1,461bpの断片とluxS:: catをPCR法により増幅し,pGEM-T Easyベクターにそれぞれクローニングし,得られたプラスミドでluxS遺伝子のフレームシフト変異が確認されている大腸菌DH5α株を形質転換した。これらの株を0.5%のグルコース添加LB培地で6時間培養し,その培養上清を用いてluminescence bioassayを行ったところ,対照に比して約100倍の発光が検出された。これより,H.pylori 1029株のluxSが大腸菌内で発現しLuxSとして機能することが明らかとなった。 また,TK1042のluxS遺伝子および発現に必要な部分を含む824bpの断片をPCR法により増幅し,遺伝子の配列を決定した。その結果luxSのサイズは465bpであり,アミノ酸155残基をコードしていた。得られた配列をゲノムの配列が公開されているH.pyloriH105株およびJ99株のHP105およびjhp97と比較したところ,塩基配列ではそれぞれ96.1%および96.2%,アミノ酸では98.0%および96.8%の相同性を示した。更にluminescence bioassayによりH. pyloriluxS変異株の54時間培養上清中のAI-2量は野生株(1402株)のそれより活性比で1000分の1以下に減少していて、培地のみを加えた陰性対照と同レベルであることが明らかにされた。
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