研究概要 |
大腸菌外膜タンパクTolCは、種々の抗生物質の排出のみならず、溶血毒素やコリシンVなどの毒性物質の放出にも関わるチャネルタンパクである。研究代表者らは毒素原性大腸菌が産生する耐熱性エンテロトキシン(ST)も、TolC依存的に外膜を通過することを見い出し、TolCが下痢原性大腸菌の病原性を成立する上でも重要であることを報告してきた。 昨年度までの実績において、TolCの3位および412位のLeu残基がその輸送機能に重要であることを明らかにし、さらにこれらのLeu残基は、ともに疎水性側鎖を有することがTolCの機能発現に必要であることも明らかにした。両者の残基間の距離は、XtalView softwareによる測定結果では、α-炭素間で7.45Å,δ-炭素間で4.15Åと算出され、極めて接近している。このようなことから、これらのアミノ酸部位はTolCのチャネル開閉を制御するドメインとして機能している可能性が考えられた。既にTolCが薬剤排出系として機能する場合では、TolCと協調的に働く因子の存在が知られている。しかしながら、ST分泌においてはそのような因子の存在はまだ報告されておらず、またそのような因子とTolCの機能ドメインとの関係も未知な点が多い。そこで、本年度はSTの分泌過程においてTolCと協調的に機能する因子の同定を試みることにした。既に、薬剤排出系においてTolCと協調的に機能する因子(AcrAB,AcrAD,EmrKY,MdtABC,YhiUV)がSTの分泌に関与しているのか否かを調べた。その結果、これらの因子がそれぞれノックアウトされた菌株においてもSTは野生株と同様に菌体外へ分泌されていた。この結果は、上記因子がTolCを介したSTの分泌には関与しないことを示している。現在、TolCと協調的に機能するその他の既知の因子についても、ST分泌に関与するのか否か検討を進めている。また、Flitrx panning kitを用いてSTと相互作用する可能性をもった蛋白質の同定も進めており、この方向からもST分泌に関与する因子について解析してゆきたいと考えている。
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