【背景と目的】大腸菌外膜タンパクTolCは、抗生物質や胆汁酸の排出に関わるのみならず、病原大腸菌においては細胞溶解毒素や耐熱性エンテロトキシン(ST)のような病原因子の菌体外分泌にも関わっている機能タンパクである。従って、TolCの輸送機能について研究することは、大腸菌におけるTolCを介した菌体外輸送メカニズムの解明につながるばかりではなく、抗生物質に対する菌の感受性を高めたり、病原大腸菌においては病原因子の放出を抑える上でも重要な知見をもたらすものと考える。このような背景から本研究では、TolCの輸送機能に重要とされる機能ドメインを同定し、その部位がいかなる様式で輸送機能に関わるのかを明らかにすることを目指した。 【研究成果】14年度から15年度の研究において、TolCの構成アミノ酸を部位特異的に変異して機能に及ぼす影響を解析した。その結果、TolCの3位及び412位に局在するLeu残基がTolCの輸送機能に重要であることを突き止めた。また、この部位の残基は疎水性アミノ酸で構成されていることがTolCの機能発現に必要であることも明らかにした。立体構造をとった際の両残基のα炭素間距離は7.45Åと極めて隣接していたことから、両残基の疎水性相互作用がTolCのチャネルの開閉を制御しているのではないかと推定した。そこで、さらに16年度においてはTolCのさらなる機能ドメインを明らかにする目的で、他のグラム陰性菌(サルモネラ菌及び腸炎ビブリオ菌)が産生するTolC遺伝子もクローニングし、大腸菌TolCとの一次構造の違いから、いかなるドメインが輸送機能に影響するのかを同定した。その結果、新たに大腸菌TolCの198位から214位に至る構成アミノ酸領域がTolCの輸送機能に関わるドメインであることを提唱した。このドメインは、TolCと協調的に機能してチャネルの開閉を制御するアクセサリータンパク質の作用部位と考えており、現在この仮説を起点に更なる研究を展開している。
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