多剤耐性を獲得する機構として、薬剤排出ポンプの関与が注目されている。 我々は結核菌のカナマイシン耐性臨床分離株の約70%が16S rRNA遺伝子の変異により耐性を獲得していることを明らかにしている。16S rRNA遺伝子に変異を有しないカナマイシン耐性株の92%に、薬剤排出ポンプに関係するtap遺伝子の変異が認められた。結核菌の薬剤耐性における薬剤排出ポンプの役割を明らかにすることを目的として研究を行った。 1)結核菌の変異型tap遺伝子をトランスフォームした大腸菌では、増殖が抑えられ、菌体はダメージを受けていた。 2)薬剤感受性試験を行ったが、アミノグリコシド、テトラサイクリン、ニューキノロン剤、いずれにおいても野生型tap遺伝子はMICに影響を与えなかった。 3)近年報告された抗酸菌のもう一つの薬剤排出ポンプであるP55(Rv1410c)に、カナマイシン耐性との関係は認められなかった。 4)23S.5S rRNA遺伝子についても調べたが、カナマイシン耐性との関係は認められなかった。 5)変異型tap遺伝子の導入により大腸菌がダメージをうけたので、コピー数の少ないpBR322vectorを使用し、野生型、変異型tap遺伝子を、大腸菌の排出ポンプを欠損させたKAM32株に導入した。tetプロモーターと逆方向に挿入されている場合に薬剤耐性を示す傾向がみられ、tap遺伝子のプロモーターを利用していると考えられた。しかし、tap遺伝子の変異と薬剤耐性との関係は明らかになっていない。現在、大腸菌の系をさらに詳しく検討するとともに、抗酸菌であるMycobacterium smegmatisの系を作成中である。 また関連実験として、内視鏡洗浄機より分離したグルタールアルデヒドおよび抗生剤耐性M.chelonaeの耐性機序を調べたが、Tapなどの排出ポンプによるものではなかった。
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