研究課題
前年度の研究により、ペスト菌(Y.pestis)は37℃の培養温度においてC_<12:0>およびC_<16:1>の量が減少したリピドAを生合成する。ことが明らかになった。このようなリピドAはマクロファージ活性化能が低いので、これらの脂肪酸転移酵素の培養温度による発現調節がペスト菌の病原性と深く関わっていると推定された。そこでこれらの酵素をクローニングしてその性質を調べるために、公表されているY.pestis C092株の染色体全塩基配列から遺伝子解析ソフトを用いて、大腸菌のC_<12:0>、あるいはC_<16:1>転移酵素遺伝子と相同性を有する領域を検索した。その結果これらの遺伝子と同様の長さ(約900bp)と高い相同性(約60パーセント)を有する領域2カ所が見いだされた。ペスト菌の染色体を鋳型としてPCRにより遺伝子を増幅したところ、これら2カ所の領域をそれぞれ含む2種類の約1.2kbの産物が得られた。実際の遺伝子発現に関する研究はペスト菌と最も近縁で低病原性のY.pseudotuberculosis血清型O1b株を用いて行うこととした。本菌のリピドAには非ヒドロキシ脂肪酸としてC_<12:0>とC_<16:1>が含まれるので、最初にこれらの脂肪酸の培養温度による変動を調べたところ、27℃に比べて37℃ではC_<16:1>は変動しないがC_<12:0>は減少することがわかった。従ってC_<12:0>のリピドAへの取り込みにはペスト菌と同様の発現調節機構が働いていると考えられた。Y.pseudotuverculosisの染色体DNAを鋳型としてペスト菌に用いたDNAプライマーを用いてPCRを行ったところ、ペスト菌の場合と同様の長さの2種類のフラグメントが増幅された。従って両菌は極めて類似した塩基配列を持った脂肪酸転移酵素遺伝子を有することが明らかになった。これらのフラグメントをpUC119に接続し、大腸菌を形質転換することによりクローニングした。これにより脂肪酸転移酵素遺伝子の培養温度による発現調節機構を調べるための材料を揃えることができた。
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