研究概要 |
赤痢菌の第一次侵入に関与するIpa蛋白質群が宿主因子の何に直接的に機能するのかに関しては、IpaAが、Vinculinに直接結合することが見出されている。また、IpaC蛋白質をmicroinjectionあるいは宿主細胞内で発現させると、CDC42,Rac GTPaseの活性化が促進され、Filopodia, Lamellipodiaが惹起されることが、Sansonetti等のグループによって報告されたが、IpaCの直接のターゲットが何であるかは解っていない。IpaCに結合する宿主側因子を検索するため,yeast two hybrid系を用いて,陽性反応を示すクローンを分離した。その結果,陽性クローンが7個分離できた。その全ての塩基配列を決めたところ,一つがβ-cateninと100%の一致を示した。β-cateninは細胞間接着に関与しているタンパク質である。細胞接着部位にはE-cadherin: β-catenin: α-catenin: actin filamentの複合体が形成され,強固な細胞同士の接着を担っていることが知られている。又,E-cadherinは,赤痢菌の細胞間伝播に関与していることが知られている。IpaCのβ-cateninとの結合が,細胞間伝播に関与している可能性が考えられた。そこで,IpaCとβ-cateninの結合についてさらに解析を加えた。in vitro, in vivoにおけるIpaCとβ-cateninの結合を種種の実験により確認した。また,IpaCと結合しているβ-cateninはリン酸化を受けていることを明らかにした。β-cateninがリン酸化されると,E-cadherin: β-catenin: α-catenin複合体の解離が促進されることが知られている。赤痢菌を感染させた細胞内で,実際に複合体の解離が起こっていることを実験的に確認した。今後,赤痢菌の細胞間伝播に関する影響を調べる予定である。
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