研究概要 |
宿主細胞質内に存在するIpaC蛋白質が、いったい宿主のどのような因子に作用しているのであるかを明らかにするために、IpaCをbaitとしてそれに結合する蛋白質をyeast two-hybrid systemを用いて分離した。その結果、陽性クローンとして7つの異なる遺伝子が分離されたが、その内のひとつが、β-cateninと100%一致した。β-cateninは、真核細胞の細胞質内に存在し、Wnt signal伝達系において細胞の分化に関与したり、またactin filament,α-cateninとE-cadherinとの結合を仲介することにより細胞間接着に働く多機能分子である。赤痢菌の第2次侵入において、E-cadherinを介した細胞接着が重要であることが解っていたので、我々はIpaCとβ-cateninとの結合が、E-cadherinの系を介した第2次侵入にも関与していることを想定した。実際に、IpaCがβ-cateninとin vitro, in vivoにおいて結合していることを、co-immunoprecipitationを用いて明らかにした。その結合は、赤痢菌の侵入初期には見られず、感染後30分以上経過してからはじめて明らかになることより、第一次侵入より、第2次侵入に関与することが強く示唆された。また、IpaCと結合しているβ-cateninは、Tyrのリン酸化が起こっていることも明らかになった。細胞生物学的研究から、リン酸化されたβ-cateninは、E-cadherinとの結合能力を失うことが明らかになっている。これらの結果を総合すると、赤痢菌の侵入後期にIpaCは、β-cateninのリン酸化を促進、或いは、他の物質によりリン酸化されたβ-cateninに結合し、E-cadherinとα-cateninおよびactin filamentとの仲介を阻害し、細胞接着をゆるめる結果、第2次侵入を調節していることが明らかになった。
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