遺伝子置換型EBウイルスを作製するための予備実験として、本年度は、EBウイルスゲノム(約170キロベース)上の意図した部位を自在に改変するためのシステムの確立を目標とした。この目的で、Akata細胞(バーキットリンパ腫由来の細胞株)内のEBウイルスゲノムにBAC(Bacterial Artificial Chromosome、大腸菌人工染色体)ベクター配列を挿入したBACクローン(AK-BAC)を用いた。AK-BACのB95-8株欠失領域にGFP遺伝子を組み込むターゲッティングコンストラクトをPCR法により作製し、大腸菌内において相同組換えにより同部位に挿入した。得られたBACクローン(AK-BAC-GFP)のDNAを大腸菌で大量調製し、Akata細胞に電気穿孔法により再導入することにより、ウイルス産生細胞を作製した。この細胞を抗イムノグロブリン抗体で処理して、GFP遺伝子を組み込んだ組換えEBウイルスを産生した。これをBリンパ球に感染させた結果、Bリンパ球は不死化して、GFP蛋白質を発現する不死化Bリンパ球細胞株(lymphoblastoid cell line、LCL)が樹立された。このLCLにおけるウイルス遺伝子発現パターンを解析したところ、野生型ウイルスの場合と同様であった。したがって、野生型EBウイルスを用いる代わりに、AK-BACを用いて作製した改変ウイルスを種々のウイルス学的解析に利用できることが明らかになった。実際に、遺伝子置換型EBウイルスを作製するために、EBNA1遺伝子をHMGI-EBNA1キメラ遺伝子、および2種類のEBNA1遺伝子変異体と置換するためのコンストラクトの作製も行なった。
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