研究概要 |
VAP100は我々が狂犬病ウイルス粒子内に見出した分子量約100-kDaのミオシン関連蛋白質であるが,本来宿主細胞由来のもので,狂犬病ウイルス粒子に選択的に(他の宿主細胞成分と較べて高い効率で)取り込まれる.感染細胞溶解液を用いた免疫沈降実験において,その選択性の基盤となる現象として,VAP100とウイルスエンベロープ蛋白質(特にウイルス糖蛋白質)との結合が示された.金コロイド結合抗体を用いたウイルス粒子の電子顕微鏡観察により,ウイルス粒子におけるVAP100の局在を見ると,主に棒状をしたウイルス粒子の平坦面をもつテール部位に抗原の集中像が見られ,一部は頭部周辺にも見られた.アクチン分子もVAP100と同様の分布が見られた.この分布の局在性および感染細胞の切片標本の電子顕微鏡観察から,出芽方式でのウイルス粒子形成過程は初期段階(芽形成),伸長過程,および終結過程(細胞表面からの粒子の切り放し)の3段階から成り,初期および終結過程に,アクチンあるいはアクトミオシンの位置エネルギーの変化を伴う何らかの物質的移動が関わりをもつことが示唆された.また,この二つのステップはウイルス粒子形成過程における律速段階とも考えられる.さらに,VAP100はウイルス糖蛋白の出芽部位への輸送にも関連している可能性もある.この点は免疫沈降実験において,アクチンを形質膜に結合させるのに関わるERM蛋白質とウイルス糖蛋白質との強い結合がみられたことから支持されるように思われる.さらにこの結合にはウィルス糖蛋白質のTMドメインの直下の特徴的な数個の塩基性アミノ酸の列びが関与しており,本来ERM蛋白質と結合するCD44やCD43と共通の構造をとっていることが強く示唆された.
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