研究概要 |
エンベロープを持つウイルスが宿主細胞の膜面から芽を出すようにして成熟粒子を形成する仕組みについて,分子レベルからの解析,特にこれまでに我々が明らかにしてきた狂犬病ウイルス粒子に取り込まれる細胞骨格成分との関連で解析を行った.まず,アクチンと細胞膜を結びつけるERMファミリー蛋白質(特にモエジン)とウイルス成分との相互作用を免疫沈降法により調べた.その結果,モエジンとウイルスのエンベロープ成分とが共沈し,この共沈物の界面活製剤(DOC)処理実験から,エンベロープ成分のうち糖蛋白質と直接結合していることが強く示唆された.次に,狂犬病ウイルス糖蛋白質のCDNAおよびC末端部位に変異を持つように変異を導入したcDNAを発現させて,細胞骨格成分との相互作用を解析した.その結果,感染系と同様に,ウイルス糖蛋白質とモエジンとの強い結合が観察され,マトリックス蛋白質との結合はみられなかった.このようなモエジンとウイルス糖蛋白質との結合はそのC末端側のアミノ酸44個からなる細胞質側配列を35個まで欠如させても結合性は保持されたが,43個欠如させると結合性は失われた.このことから,ウイルス糖蛋白質の細胞質側の数個のアミノ酸からなる部位がモエジンとの結合に関与していることが強く示唆された.ウイルス糖蛋白質のこの部位のアミノ酸配列をみると,モエジンが本来結合するCD44,CD43やNCAMの細胞質側のアミノ酸配列と高い相同性を示すことが明らかになった.一方,RNP側から見ると,Hsc73がまず(-)鎖選択的にRNPに結合し,次いでこれにβ型のマトリックス蛋白質が結合し,後者がウイルス糖蛋自質と強く結合する(DOC抵抗性)性質を持つことを先に明らかにしていたので,以上の研究成果から,(-)RNPがHsc73やMβと結合した後,ウイルス糖蛋白質とモエジンの複合体との結合が起こり,さらにウイルス粒子として出芽する過程に進む可能性が強く示唆されるに至った.
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