成人T細胞白血病(ATL)腫瘍細胞から分離したトランスフォーミング遺伝子Tgatは、ニューロンのアクソンガイダンスに関与するTrio遺伝子のクリプティックプロミーターから転写され、かつ選択的スプライシングを受けた結果、TrioのRhoGEFドメインをコードする9個の既知エクソンとTrio遺伝子の最終エクソンから1.6kb下流に存在する1個のエクソンで構成されていた。 このがん関連遺伝子TgatはATL腫瘍細胞に特異的に発現しており、HTLV-1感染細胞株であるMT-2やTL-Suなどでは全く発現していない。しかしながら、ATL腫瘍細胞由来である数種の細胞株ではその発現を認めた。すなわち、細胞株であっても、in vitroにおけるHTLV-1感染により作製された細胞株ではウィルスが有する転写活性化因子であるTaxの発現が高いにも拘わらずTgatの発現が検出できなかったのに対し、ATL腫瘍細胞そのもの、あるいは腫瘍細胞由来の細胞株に限局してTgatの発現が認められた。ATL腫瘍細胞ではTaxはほとんど発現していないので、Tgatの発現はATL腫瘍細胞特異的かつTax非依存性であると考えられた。 種々のTgat変異体の解析から、Tgatのトランスフォーミング能にはRhoGEF活性とC-末端領域の両者とも必要であることが分かった。また、Tgatは細胞の遊走能には影響を与えないが、コントロールの10倍以上の浸潤能を細胞に獲得させることができた。トランスフォーミング能の場合とは異なり、Tgatの浸潤能にはC末領域の14個のアミノ酸がより重要であった。すなわち、Tgatは細胞内Rhoを活性化し、さらに下流のエフェクターであるROCKを活性化して細胞骨格を再構成するのみならず、C-末領域を介して細胞内のある因子と結合することにより細胞浸潤能の亢進に関与していると考えられる。以上の結果より、TgatのATL腫瘍細胞における特異的な発現が、細胞の増殖能・悪性度・浸潤能などになんらかの影響を与えている可能性が示唆された。
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