成人T細胞白血病(ATL)腫瘍細胞内に存在するエピジェネティック・ジェネティックな変異を受けたがん関連遺伝子の単離を行なうために、新鮮ATL腫瘍細胞からレトロウイルス発現ベクターを用いて腫瘍細胞由来の発現cDNAライブラリーを作製した。個のライブラリーをNIH3T3細胞に導入することにより、フォーカス形成能、軟寒天中でのコロニー形成能、ヌードマウスにおける腫瘤形成能を有するがん遺伝子Tgat(Trio related transforming gene in ATL tumor cells)を分離することに成功した。TgatはATL腫瘍細胞に特異的に発現しており、HTLV-1感染細胞株や他の白血病細胞で発現していない。Tgatの構造は、神経軸索のガイダンスに関与するといわれているTrio遺伝子のRho GEFドメインに相当するエクソンとTrio遺伝子の下流に存在する新たなエクソンの選択的スプライシングにより構成されていた。変異体やキナーゼ阻害剤を用いた実験により、Tgatのがん遺伝子としての活性化には、Rho GEFドメインならびに選択的スプライシングの結果生じたC-末端領域の双方が必要であることを明らかにした。またTgatはNIH3T3細胞をトランスフォームさせるだけではなく、高い浸潤能を有することもマトリゲルを用いた実験により証明した。さらにTgatはC-末端領域を介して、がん抑制遺伝子であるRECKと結合することも明らかになり、RECKの機能を抑制することにより高い浸潤能を有することが示唆された。 一方、ATL腫瘍細胞は恒常的にNF-κBが活性化されていることも知られており、白血病化の重要なメカニズムと考えられている。ATL腫瘍細胞由来の発現ライブラリーからNF-κBを活性化する分子の分離を試みたところ、驚くべきことにTgatが同定された。 すなわち、新たに分離されたがん遺伝子Tgatは複数の機能を獲得することにより白血病化の一翼を担っていることが示唆された。
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