研究概要 |
同種指向性(エコトロピック)マウスレトロウイルス(eMuLV)の受容体は、カチオン型アミノ酸輸送体1型(cationic amino acid transporter 1;CAT1)である。CAT1は14回膜貫通型の細胞表面蛋白であり、その第3細胞外ドメインがウイルス受容体機能に重要であることが知られているが、その発現様式や細胞内輸送のメカニズムには不明の点が多い。これらの点を解明するため、マウスCAT1(mCAT1)のC末に緑色蛍光蛋白(GFP)標識した融合蛋白(mCAT1-GFP)の発現ベクター(Masuda et al.,1999)をイヌ腎臓由来の株化極性上皮細胞MDCKに導入し、安定発現株を樹立した。昨年度はレーザー共焦点顕微鏡を用いた細胞生物学的解析により、mCAT1-GFPが極性上皮細胞のbasolateral表面に発現すること、細胞内輸送に関与するアダプター複合体AP1、AP2と共局在することを示した。今年度は、免疫沈降法やウェスタン法等の蛋白化学的手法により、mCAT1-GFPとAP1、AP2が直接あるいは間接に結合することを明らかにした。従って、CAT1の細胞内輸送にはAP1やAP2が関与し、それが細胞内局在を規定すると示唆される。一方、mCAT1-GFPを発現するMDCK細胞にeMuLVを感染させると、mCAT1-GFP由来の蛍光が減少し、細胞内局在も変化した。細胞生物学および蛋白化学的手法により、eMuLV感染細胞ではmCAT1-GFPが主にアダプター複合体AP3と相互作用することも示された。これらの知見は、eMuLV感染が何らかの機序によってCAT1と相互作用するアダプター複合体をAP1/AP2からAP3へと切り替え、それによって受容体発現を抑制する可能性を示唆する。レトロウイルスの受容体干渉のメカニズム解明にも寄与しうる成果と考えられる。
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