研究概要 |
同種指向性(エコトロピック)マウスレトロウイルス(eMuLV)の受容体であるカチオン型アミノ酸輸送体1型(CAT1)の発現制御機構には不明の点が多い。また、eMuLVの感染がCAT1の発現に与える影響も明らかではない。これらの点を解明するため、マウスCAT1(mCAT1)のC末に緑色蛍光蛋白(GFP)標識した融合蛋白(mCAT1-GFP)の発現ベクター(Masuda et al.,1999)をミンク由来細胞株CCL64に導入し形質転換細胞を得た。細胞膜上にmCAT1-GFPを発現するこの細胞はeMuLVの感染に感受性となったが、感染後には細胞表面のmCAT1-GFPが激減した。レーザー共焦点顕微鏡を用いた解析により、eMuLV感染細胞ではtrans-Golgi networkから細胞表面へのCAT1の輸送が抑制されている可能性が示された。この可能性をより詳細に検討するため、イヌ腎臓由来の株化上皮細胞MDCKにmCAT1-GFPベクターを導入し、安定発現株を得た。この細胞を用いた解析により、mCAT1-GFPが極性上皮細胞のbasolateral表面に発現すること、蛋白の細胞内輸送に関与するアダプター複合体AP1、AP2と共局在することが示された。免疫沈降法やウエスタン法により、mCAT1-GFPがAP1やAP2と直接あるいは間接に結合することも示された。一方、この細胞にeMuLVを感染させると、CCL64の場合と同様、細胞表面のmCAT1-GFPが激減した。それに伴い、mCAT1-GFPとAP1の結合が減少し、代わってAP3との相互作用が増加した。すなわち、eMuLV感染はCAT1と種々のアダプター複合体の相互作用に影響を与えることが新たに見出された。レトロウイルスの受容体干渉の機構解明にも寄与しうる成果と考えられる。
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