リンパ節再生方法の確立とそれによる腫瘍転移予防機構の研究

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 14570278
• 研究機関: 特殊法人理化学研究所
• 研究代表者: 吉田 尚弘 理化学研究所, 免疫システム制御グループ, 上級研究員 (20281090)
• キーワード: 末梢リンパ器官 / IL7R / CXCL13 / 間質細胞 / TRAF6 / LTab

研究概要

リンパ節の再生方法を探るためにまずリンパ節の自然発生過程を解析した。ミュータントマウスの発生解析により、マウス胎仔における末梢リンパ器官発生は以下の過程を経て発生することが明らかとなった。(1)ケモカインCXCL13の局所的な発現、(2)同発現部位へのIL7Ra+細胞の移動、(3)同部位でのサイトカイン発現によりIL7Ra+細胞が刺激されてLTabを発現、(4)LTabによる間質細胞刺激により間質細胞がVCAM1、ICAM1、MAdCAM1などの接着因子およびCCL21、CXCL13などのケモカインを発現する。(5)発現した接着因子やケモカインに誘導されて他の細胞系列が末梢リンパ機関原基に移動してくる。(6)それとほぼ平行して末梢リンパ器官の組織構築区分が形成される。(7)MAdCAM1陽性のHEVが形成される。
以上の発達過程を末梢リンパ節形成不全を呈するTRAF6-KOマウスで観察した場合、このマウスでは過程(3)のリンパ節原基で発現するRANKLに対するIL7Ra+細胞の反応性が欠如しており、このために過程(4)の間質細胞分化がうまく行かないことが明らかになった。ところがこのマウスではIL7Ra+細胞は十分量存在し、他の末梢リンパ機関発育は認められることからLTab産生を誘導する他のサイトカインであるIL7を胎仔腹腔内に注入したところ、リンパ節原基の発生が誘導された。
以上のことから、IL7Ra+細胞とLTabに反応する細胞とを組み合わせることにより末梢リンパ器官原基の基本構成を作り出すことができると考え、FACSにより細胞を取り出してヌードマウス皮下組織への注入を行ったが、再構成誘導は確認できなかった。移植された細胞運命についてトランスジェニックマーカー発現マウスの細胞を用いての再構成実験を引き続き行うとともに、in vitroでの原基再構成を目指して培養系の開発を模索中である。

研究成果

• [文献書誌] Nishimura EK, Jordan SA, Oshima H, Yoshida H, et al.: "Dominant role of the niche in melanocyte stem-cell fate determination"Nature. 416. 854-860 (2002)
• [文献書誌] Naito A, Yoshida H, Nishioka B, Satoh M, Azuma S, Yamamoto T, Nishikawa S, Inoue: "TRAF6-deficient mice display hypohidrotic ectodermal dysplasia"Proc Nati Acad Sci U S A.. 99. 8766-8771 (2002)
• [文献書誌] Murakami H, Okawa A, Yoshida H, Nishikawa S, Koseki H, et al.: "Elbow knee synostosis (Eks): a new mutation on mouse Chromosome 14."Mamm Genome.. 13. 341-344 (2002)
• [文献書誌] Nishioka E, Tanaka T, Yoshida H, Matsuinura K, et al.: "Mucosal addressin cell adhesion molecule 1 plays an unexpected role in the development of mouse guard hair"J Invest Dermatol.. 119. 632-638 (2002)
• [文献書誌] Yoshida, H., Naito, A., Inoue, JI., Satoh, M., Santee-Cooper, et al.: "Different cytokines are inducers of surface lymphotoxin-alpha/beta on IL-7 receptor-alpha cells that differentially engender lymph nodes and Peyer's patches"Immunity. 17. 823-833 (2002)
• [文献書誌] Fukuda, K., Yoshida., H., Sato, T., Furumoto, T., et al.: "Mesenchymal expression of Foxll, a winged helix transcriptional factor, regulates aeneration and maintenance of gut associated lymphoid organs."Developmental Biology. (in press). (2003)