ラフト(Lipid rafts)はスフィンゴ脂質(スフィンゴ糖脂質(GSL)とスフィンゴミエリン(SM))及びコレステロールより構成されている。ラフトの構造は細胞外の脂質濃度、特にコレステロール濃度に大きく影響されるものと考えられている。しかし、細胞外コレステロール濃度をどの程度変化させた時にラフトの構造変化が認められるようになるのかという基礎的な検討はなされていない。また、高コレステロール血症という細胞外環境のコレステロールが高い病態において、ラフトがどのように変化し、この変化が個体の免疫系にどのように影響しているのかは全く不明である。本研究においては、高コレステロール血症によってラフトの構造と機能がどのように変化するかを解析した。高コレステロール血症患者T細胞を刺激したところ、ラフトの細胞表面発現の指標であるガングリオシドGM1の発現上昇は認められ、これは正常群と有意な差は認められなかった。従って、刺激特異的なGM1発現上昇という点においては、高コレステロール血症は細胞膜ラフトに影響を与えないことが明らかとなった。一方、スフィンゴ脂質に関しても、それがT細胞膜ラフトの構造維持及び機能発現に重要かどうかはよく分かっていない。特定のGSLの生合成経路に欠損をもつT細胞株を樹立し、この細胞株のラフト機能及びTCRシグナル伝達の解析を進めた。GSL合成経路の酵素群のうちGM2/GD2合成酵素が欠損した変異細胞株・SGL-A5を樹立した。SGL-A5はGSL合成がGM3までで完全に遮断されており、GM2やGM1などの複合型ガングリオシドが欠損している。この変異株の機能を解析したところ、親株Jurkat細胞と比較して、刺激後の転写因子の活性化及びサイトカインの産生が5〜10倍と顕著に増強した。すなわち、複合型ガングリオシド欠損によりT細胞の活性化は上昇することが判明した。
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