T細胞活性化作用を有する一群の細菌毒素であるスーパー抗原は、抗原特異性に無関係に多数のT細胞を活性化し、大量のサイトカイン産生を誘導する。しかしその後いわゆるトレランスに陥り、メモリー細胞分化は誘導しないと考えられてきた。本研究では、スーパー抗原刺激によりメモリー細胞誘導が可能か否か、アナジーの誘導はメモリー細胞の誘導とどのような機序の違いにより生じるのかについてサイトカイン産生を指標に明らかにすることを試みた。 2002年度は、OVA23-3-TgおよびTSST-1を用いてinvivoアナジーの系を確立した。この系を通常抗原OVA刺激によるT細胞の活性化と比較し、アナジー誘導がサイトカインストームによる免疫応答の遅延と異なることを明らかにした。さらに、2003年度は、このシステムを用いてin vivoアナジーにおけるIL-2プロモーター領域のヒストンアセチル化レベルの解析を行い、invivoアナジーにおけるIL-2産生抑制との関連性を解析した。遠位プロモーター領域と近位プロモーター領域のヒストンアセチル化をChiP-assay法により解析したところ、in vivoおよびin vitro初回刺激後48時間において近位プロモーター領域のヒストンアセチル化が亢進する一方で、アナジー誘導系においては、近位・遠位両者のプロモーター領域でヒストンアセチル化レベルが低下していた。IL-2mRNAレベルがアナジー誘導系で低下することは、Northern blottingにより確認された。昨年度報告したように、IL-2はタンパクレベルで抑制されていることが明らかとなっており、IL-2産生量の抑制がヒストンアセチル化に関連した転写レベルの調節機構によることが示唆される。 一方、これらアナジー誘導系においては、CD69、CD25等の活性化抗原の発現が認められ、IL-2産生は転写レベルで抑制されているものの、ある程度の活性化は誘導されている事が明らかとなった。これらはメモリーマーカーであるCD44陽性細胞を含んでおり、in vivoアナジーを誘導されたT細胞は、メモリー細胞と共通する性質を持つ可能性が考えられる。
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