BILLカドヘリン(現在ではcadherin-17)は、リンパ球に発現するカドヘリン分子として我々が初めて同定・クローニングしたもので、B細胞の発生・分化を通してその発現量は大きく変動し、他のカドヘリン分子と同様"spatiotemporal"な発現制御を受けている。この分子はまた、腸、鼻腔、肺などの粘膜免疫組織にも限局して発現している。このことから、BILLカドヘリンが、B細胞と粘膜免疫系を結ぶ機能的枠組みを与えている可能性が示唆される。この分子の免疫系における機能を明らかにするために、膜貫通ドメインを含むエクソンを欠損したノックアウトマウスを作製した。B細胞表面に分化時期特異的に発現するBILLカドヘリン蛋白質は、ホモの個体では完全に消失していることが、免疫沈降法、flow cyto metry法、免疫組織法によって確認された。この、BILLカドヘリン蛋白質発現欠損による免疫組織・機能の異常を検討した結果、これまでに以下のような知見を得た。(1)骨髄におけるB細胞の分化に大きな異常はないが、プロB細胞の頻度が約2倍に増加する。(2)脾においては胚中心の大きさが有意に減少する。(3)脾辺縁帯の性状に異常が見られる。(4)T依存性抗原に対する抗体産生応答には異常がないが、T非依存性抗原に対する抗体産生応答が有意に低下する。これらの知見は、BILLカドヘリンが、プロB細胞分化およびB1細胞の機能に関与していることを示唆する。 骨髄においてはBILLカドヘリンはプロB細胞と未熟B細胞で発現しプレB細胞には発現されない。プロB細胞表面では代替軽鎖と結合して分子複合体を形成しており、プレB細胞レセプターと代替軽鎖分子を競合する。我々は、この競合に関与すると考えられる代替軽鎖上の特殊なドメインの構造に着目し、詳細に解析した結果、それがプレB細胞レセプターの活性化ドメインであることを示すことが出来た。この知見は、B細胞の初期分化において抗体の抗原認識多様性が免疫系に組み込まれる機構の一端を明らかにした。
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