BILLカドヘリン(cadherin-17)は、我々がリンパ球に発現するカドヘリン・ファミリー分子としてめて同定したもので、B細胞の発生・分化を通してその発現量は大きく変動し、"spatio-temporal"な発現制御を受けている。また、腸、鼻腔、肺などの粘膜免疫組織にも集中して発現していることから、抗体産生B細胞と粘膜免疫システムの機能的連関を司る可能性が考えられた。この分子の機能をBILLカドヘリン遺伝子欠損マウスを用いて解析した結果、以下のことが明らかになった。 (1)骨髄においてプロB細胞の頻度が約2倍に増加する。(2)脾臓において胚中心の大きさが有意に減少する。(3)脾臓辺縁帯の性状に異常が見られる。(4)腹腔B1細胞の形成異常が認められる。(5)小腸粘膜固有層に存在するIgA産生B細胞の局在性が変化する。(6)T非依存性抗原に対する抗体産生応答が有意に低下する。(7)Salmonella typhimurium感染に対する感受性が低下する。これらの結果から、BILLカドヘリンがB1細胞を主としたB細胞亜群の動態制御に関与することが強く示唆された。また、腸管上皮に発現するBILLカドヘリンはSalmonella菌の感染機序に関与していることも示唆された。 一方、BILLカドヘリンはプロB細胞表面で、代替軽鎖(VpreB/λ5)と分子複合体を形成している。代替軽鎖はプレB細胞レセプターの構成分子として抗体産生B細胞の発生・分化に重要な役割を果たすことから、BILLカドヘリンとの相互作用の分子基盤を解明することも念頭に置き、代替軽鎖の機能を司る構造基盤の解析を行った。代替軽鎖の機能ドメインの予測とその突然変異体を用いた解析から、代替軽鎖の非免疫グロブリン・ドメイン同士の静電的な相互作用によって外来のリガンド無しに架橋・活性化する機構を明らかにした。このことは、B細胞の初期分化の最も重要な過程の一つが、分化の「場」、すなわち骨髄の微小環境に依存するのではなく、細胞の自律的な分子機構によって進行すること示唆する。
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