食餌性因子は、ヒトに対する化学発がんの原因別割合で、タバコと同程度の35%を占めると推定されている。従って、食餌性因子由来の天然物質や化学物質の発がん機構を解明することは非常に重要である。さらに、食餌性因子に加え、環境化学物質等の発がんリスクの評価も急務である。本研究は、環境因子や食餌性因子と生体内物質との相互作用によるDNA損傷機構を解明し、一般的な生活が発がん感受性に与える影響について検討を行った。天然アミノ酸のホモシステインや食品に含まれるカテコール、ウレタン代謝産物、カテキン類、大気汚染物質ベンズアントラセンの代謝産物、糖尿病などによる高血糖時に生体内で上昇するアルデヒド類、医薬品のプロカルバジンやドキソルビシン、AZT、内分泌撹乱化学物質のビスフェノールA等が生体内物質(重金属や還元物質NADH)の存在下で活性酸素を生成しDNAを損傷することを明らかにし、その機構を詳細に解明した。また、プロテオーム解析を行った結果、ビスフェノールAによるアポトーシス誘導の初期の段階においてグルタチオンS-トランスフェラーゼの上昇やがん抑制遺伝子産物14-3-3タンパク質の減少が認められた。さらに、ビタミン類の葉酸や医薬品のメトトレキサートおよび薬草などに存在するキサントン類が紫外線(UVA)照射により、DNA等の生体高分子の損傷を引き起こし、光発がんや光アレルギー性疾患等に関与することを解明した。以上の結果から、食餌性因子や環境因子による発がん機構に活性酸素や活性窒素によるDNA損傷が重要な役割を果たしていることが示唆された。また、DNA損傷性を指標とすることで発がんリスクを有効に評価することが可能であると考えられる。
|