研究概要 |
我々は、これまでに甲状腺ホルモン(T3)のシグナルを伝達することが可能な甲状腺ホルモン受容体高発現細胞株(HeLaTR)を作成し、甲状腺ホルモンレスポンスエレメント(TRE)を有するルシフェラーゼ遺伝子(TRE-Luc)をレポーターとしてダイオキシンや水酸化PCBがT3による転写活性化に影響することを明らかにした。また、DNAマイクロアレーによりHeLaTR細胞においてT3添加により発現が著しく変化する遺伝子として4-1BB, PSG7, fmfc, BMP6等を見出し、ダイオキシンや水酸化PCBによりこれら遺伝子の発現が変化することを明らかにした。 今年度は、近年、使用量が増加している臭素化難燃剤、難燃剤関連化合物、有機態ヨウ素化合物、さらに農薬類について、甲状腺ホルモン受容体を介したルシフェラーゼ活性の増減を指標として(抗)甲状腺ホルモン様作用を検討した。その結果、現在最も使用量の多い臭素化難燃剤であるテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)はT3によるルシフェラーゼ活性の上昇を抑制する作用が認められ、TBBPAに次いで使用量が多いシクロヘキサドデカン(HBCD)は単独でルシフェラーゼ活性を上昇し、共に添加することによりT3によるルシフェラーゼ活性を相加的に上昇させた。また、試験管内で精製した甲状腺ホルモン受容体との結合が報告されていた農薬のニトロフェンも単独でルシフェラーゼ活性を上昇し、T3との相加作用が認められた。ニトロフェンは甲状腺で発現している転写因子TTF1を抑制することが知られていたが、今回の結果から、甲状腺ホルモン受容体を介した転写活性化へも影響することを明らかにした。現在、さらに多くの有機態ハロゲン化合物について甲状腺ホルモン受容体の転写活性化及びT3下流遺伝子の発現を指標として(抗)甲状腺ホルモン様作用を検討している。
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